続・チャレンジと無謀は天と地ほどの差があるVol.1

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8月も終盤になりましたが、日本の南海上の台風や熱帯低気圧の動きがとても賑(にぎ)やかになってきました。今後確実に、台風からのスウェルが日本の太平洋岸の広範囲に到達し、しばらくは続きそうな見込みです。海快晴のユーザーの皆さまにおかれましては、このコラムを参考にされて、今後も安全かつ楽しい海での行動に結び付けて頂ければ幸いです。

 突然ですが、皆さまは2007年9月7日未明に伊豆半島に上陸したのち、首都圏を直撃した台風9号のことを覚えていますか?

 神奈川県西部の相模湾沿いに敷設されている西湘バイパスを崩落させた、あの台風9号だと説明すれば、多くの方が思い出して頂けたのではないでしょうか。

 その台風9号は、最低の中心気圧は965hPaでありながらも、衰えることなく関東周辺を直撃することが、事前の「Wave Hunter」の計算で予想されていました。さらには、台風の渦度から見て、接近・上陸すればかなりの危険性が高まったため、2007年9月6日に姉妹サイトである『波伝説(なみでんせつ)』で、本州のサーファーに向けて、警戒と、エキスパートを除いてサーフィンを自粛するように促したのが、コラム『チャレンジと無謀は天と地ほどの差がある』でした。

 今年は、東日本大震災による未曾有の被害にとどまらず、その後の余震の影響も加わり、本州の広範囲で地盤が緩んでいるばかりか、被災地では防波堤が決壊して地盤沈下が進んでいる地域もあり、もしも台風が接近・上陸すれば、各地で大きな被害になるかもしれません。

 また、台風の悪影響が予想されるときに、ひとたび海難事故を起こしてしまえば、家族のみならず、地元の関係機関・関係者に大変な迷惑をかけてしまいます。

 海という大自然を相手にする私たちは、台風についてきちんとその危険性について正しい知識を学んで、海難事故防止に結び付けねばなりません。今回、前回のコラムに加筆して次の通りまとめましたので、参考にして頂ければ幸いです。

 某サーフボードメーカーの社長で、ビックウェイバーでも有名なS氏に聞いた話ですが、『20フィートオーバー(3階建ての高さくらい)のハワイノースショアに位置するワイメアにヒットする大波よりも、台風の接近時にバンバンとセットが入る頭半〜ダブルサイズ(平均男性の身長の1.5〜2倍の高さ)の日本の波の方が、大変危険でありとても恐いので、細心の注意を払っている』とのことでした。実際に某リバーマウスで、頭半〜ダブルサイズの波と引き波の強いショアブレイクに妨げられて陸に上がることができず、とても恐い経験をしたことがあるそうです。

 台風が近づいてきたときでも、ビックウェイブポイントや、うねりや風をかわす内海などの場所などでは、上級者であれば何とかサーフィンできることはありますが、強風圏、暴風圏に入るくらいに台風が接近してきたときには、海に熟知したエキスパートの方たちからは、サーフィンすることパドルアウトすること自体が「無謀」と言われても仕方ありません。

 台風接近時のサーフィンやマリンスポーツがいかに危険なのかを分かりやすく説明するために、気象庁が日々発表している添付の沿岸波浪実況図をご覧ください。


沿岸波浪実況図(台風接近時のサンプル)
沿岸波浪実況図(台風接近時のサンプル)


http://www.data.kishou.go.jp/db/wave/comment/chart/coast.html

 台風の中心に向かって、1mごとに波高ラインが緊密になっていくのが分かりますでしょうか。簡単に言えば、50〜100kmくらいの距離で、1mの波高が、2倍(m)、3倍(m)、4倍(m)、5倍(m)、6倍(m)になっていくことを表し、中心の最大波高は13mになっています。

 なお、波の高さは有義波高(ゆうぎはこう)という気象用語で表されています。有義波高とは、海の波を小さいものから大きいものまで100の波を順番に並べた場合に、その大きい方から30波(つまり71〜100波)の平均値が、有義波高の数値になります。統計的には、100波のうちの1波は有義波高の1.6倍の大波が押し寄せ、1000波のうちの1波は、さらに大きな1.9倍もの一発大波が押し寄せるとされています。先の台風の中心の最大波高である13mの1.9倍は、約25mです!!

 25mの大波はとんでもない高さですが、サーファーは日ごろの波でも経験的にこの一発大波のことを体験しているので、いきなり襲われる大波の恐怖とユーモアとを掛け合わせて、この一発大波のことを“オバケセット”と呼んでいます。(笑)

 大波ばかりでなく、台風に吹き込む強風も接近するにしたがって、2倍、3倍、4倍...、次第に暴風圏内となり、瞬間最大風速は記録的な風速になって、海は人をまったく寄せ付けない姿となります。波と風が、一気に2倍、3倍、4倍になるのが、台風接近時の危険な荒れ狂う海なのです。つづく。

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